終章

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「――わかった、出てく。“アンタの物”も置いていく」 ゆっくりと、リュックを床に置く。 両手を頭の高さ程度に上げた。 レンチは足元。 距離は2m弱だが、レジカウンターを挟んでいる。 包丁を持ち人質を抱えた相手には分が悪い。 「だから、その子を離してくれ。まだ子供だろ?」 だが、 「子供? はは、なかなか……良い女、じゃないかぁ?」 そのにやけ面に、嫌悪感を覚えた。 「見かけによらないんだろ? どうせ、金貰って男と色々してきたんじゃないのか? 俺ともしてくれよ。もう俺も“ああなる”んなら、最後に楽しまないとな!」 「っ、お前! 大概にっ――!!」 つい、声を荒げる。 と、 「おいおい、動くなよ? これだけ良けりゃ動かなくたって楽しめそうだぜぇ?」 男は澪の首に回す腕の力を強めた。 「ぁ……ぃ゛」 加減の無い男の力。 彼女の喉から息が漏れた。 その苦痛に耐えながら、澪はパーカーのポッケに手を伸ばす 俺に注意が向ける様に、あえて一歩前に出た。 「待て、早まるな!」 「動くなって言ってんのが聞こえねぇのかぁ!?」 男は俺に包丁を向けて叫ぶ。 その隙に、澪はポケットから取り出した『エアーウェイト』を取り出して、そのまま男の太もも辺りに押し当て、引き金を引いた。 店内に破裂音が響く。 道中、頭を潰された警官の近くに落ちていた銃。 念のため、彼女に持たせていたのが幸いしたようだ。 「澪!」 叫ぶのと同時に彼女はカウンターを乗り越えて、俺はソレに駆け寄った。 「撃ちゃった……人、撃っちゃ――」 この子は強い。 感染者が徘徊する中、ここまで逃げてきた行動力と勇気がある。 だが――感染しているとはいえ、人を撃って平気な訳はない。 「大丈夫、大丈夫だ」 抱きしめると、その身体は凍えた様に震えていた。
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