終章

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「誰、貴方!?」 「誰でも良いだろ、近くに俺の家がある。非難したきゃ来い!」 少女の問いにそれだけで返す。 正直、なんで彼女を助けようと思ったのか自分でも不思議だった。 道中、他にも生存者は居た筈だが……この中で正常な判断など出来る筈もないだろう。 故について来るのも来ないのも本人に任せる。 他に近場の感染者を殴り飛ばすと、 「それで貴方の家って、どこなの!」 少女は、俺について来るのを選んだようだ。 「そこの角を右に曲がった3軒目! 表札は佐奈田だ!」 それに頷いて少女は走る。 俺もその後に続く。 彼女は、ただ逃げてここまで来た訳ではないらしい。 その手に握られている不釣り合いな血の染みた木製のバットを振りかぶり、 「このっ!」 感染者の脳天に振り下ろす。 自身の非力さを自覚しているようで、腕の力だけでなく、全身のバネを使った体重を乗せた打撃。 頭蓋を粉砕する程の威力は無いにしろ、脳に損傷を与えるには十分だ。 「なんだ、割りとバイオレンスだな」 「でなきゃ、今頃コイツ等の仲間でしょ!」 確かにそうだ。 そこまで神経質に心配する事はないだろう。 だが、些か振りが大きい。 続けて二人以上の相手は彼女の振りが間に合わない。 「無理すんな、下がれ!」 彼女を追い越し、前に出る。 後ろを向いている感染者を蹴り飛ばし、家の前に居る感染者に向かいレンチを振り翳す。 そして、 「……ぁ――?」 ――動きが止まってしまった。 レンチを握りしめた手から力が抜ける。 「何してるの! どいて!!」 その50近い女性の感染者に少女は、すれ違い様、走る勢いを乗せたバッティングの様にフルスイング。 姿勢が不安定な所に顔面を打たれ、その感染者は、押される様に倒れた。 アスファルトに頭を打ち付けたのだろう、酷く鈍い音がした。 「――……」 呆然とその動けないでいる俺の手を、 「早くして! 私だって死にたくないんだけど!」 少女が無理やりにひいた。
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