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◇
住み慣れた自宅の玄関だが帰宅した、という実感はなかった。
「――ったく、なんで急に止まるのよ。ついて来いって言った癖に」
少女の苛立った声に我に返ると、切れ長の目に睨まれていた。
「……あぁ、いや――すまん。ちょっと待ってろ、一応家の中を確認する」
鍵は開いていた。
なら、他人が入っている事も考えられる。
真っ当な人間なままなら得に問題は無いだろうが、違う場合は穏便には済まない。
手早く一階を見て回り、二階の各部屋を確認する。
今朝と変わりがない。
変化と言えば、掃除や済み、洗濯物が干されている位か。
ようやく安堵して、一階に降りると少女は、台所で冷蔵庫の中を漁っていた。
人の家で勝手に――と、突っ込む気にはならなかった。
「どう何か問題あった?」
「いや、大丈夫だ」
「一応、鍵閉めておいたから。あと、食べ物貰ってるわよ」
「……お好きに」
俺は、リビングのソファーに座り込んで、うな垂れた。
時計を見ると5時45分。
まだ1時間も経っていない。
「貴方、一人で住んでる訳じゃないんでしょ? 結婚してるの?」
「んー? いや、親と3人」
「今、いくつ?」
「二十歳」
「一人暮らしする気とかなかったの」
「取りあえずはな。給料も少ないし?」
「そんなこと言ってると、モテないわよ。彼女とか居ないでしょ?」
「ほっとけJK。お前は居るのか」
嘲るような言い回しに、同じく嘲りで返す。
「居たわよ。一か月くらい前まではね」
あ、ちくしょう。負けた……とか、思ってしまった。
「それで、その親は共働きなの? 今、居ないんでしょ」
言って、袋を皿に開け電子レンジに突っ込んだ。
冷凍食品の何かだろうか。
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