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「うちの地元にもプラネタリウムがあるんだよね」
「へぇ」
「へぇって。興味なさそう」
「そげんこと……そんなこと、ないですよ」
つい地元の方言が出てしまって、慌てていつもの言葉遣いに戻す。ネット上ではキチンとした敬語だから、やっぱりここでも同じようにしないと。でも周りが耳に馴染んだ福岡の言葉だからどうしてもそれに引きずられてしまう。
せっかく遠くから旅行に来てくれたのだ。ちゃんと案内しなければ。
「いいよ、方言」
「え?」
そう言って、彼女は柔らかく笑った。その表情にぐっと胸の奥が締め付けられる。普段はキュッとつり上がっている目尻が、笑うと柔らかく垂れるのだ。その差にいつも私は、バカみたいに、泣きそうなほどに愛おしいと思ってしまう。
そんなことを思っていてはいけない。だって彼女は、私の「友人」なのだ。いつまでも、どこまでも、私たちは「友人」としていなければいけない。
「ひなちゃんは、いっつも敬語だから。そうやって素が出てくれたら私は嬉しいな」
「でも……方言、結構きついですよ」
「うん。でもいい。私は好きだよ」
だから。そうやって、好きというたびに。私は何度自分の恋心を殺したことか。貴女はきっとわかっていない。
「さちさんは」
「ん?」
「……なんでも、ないです」
「えー」
「なんでも! ないです!」
教えてよ、なんて言いながら、私の腕にすがってくる。その度に彼女の髪から甘い香りがして、また私の胸がぐうと痛んだ。私はきっとこの香りを思い出に何日も過ごすのだ。さちさんとの思い出にすがって、何日も、何ヶ月も過ごすのだ。そんなこと彼女は何も知らずに。
そもそもこの旅行だってきっかけは突然だった。うちの地元で行われるお祭りに行ってみたいから、だからもし里帰りすることがあれば付いて行っていいかなんて。わざわざ東京に住む私にそう連絡してきたのはさちさんだった。
その言葉にホイホイ乗っかって了承したのは確かに過去の私で、そのために有給まで使って休みをもぎ取ったのも確かに私だ。そこまでして彼女と一緒にどこかに行きたかったのは、多分、一種の執着なんだと思う。顔も声もわからないネットでの関係じゃ嫌だから。だから、こうやって直接会いたいと思ったのだ。彼女がどう思っているかは知らないけれど。
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