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「ひーなちゃん」
「なんですか」
「んー?」
さっきまで暑い暑いと言っていたのに、さちさんは私の腕にしがみついたままだ。おまけに何を考えているのか肩口に額をこすりつけてくる。私のほうが十センチくらい身長が高いせいでちょうど額が肩に当たるのだ。お互い汗をかいているだろうに、それを気にもとめず肩のあたりにじゃれついてくる。
ああ、もう。本当に。何だって言うんだ。そうやって私のことを年下の友人と思って。いつまでもからかうのだ。面白いくらい表情に出てしまうから嫌なのに。平常心を保つために必死になって奥歯を噛み締めているのに。さちさんは、何もわかっていない。
「歩きにくいです」
「つめたーい」
「外はくそ暑いんですから。ちょうどいいでしょ」
そうやって、何事もないと言わんばかりに私は足を速める。息を漏らさないように飲み込まないと涙がこぼれそうだった。彼女の長い髪が腕をなぞる。柔らかくて、くすぐったくて、その場で叫びだしたくなるほどに、愛おしかった。
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