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「遥也ちゃんとご飯食べてるかなーって……ずっと心配だったから」
「……!」
お前は俺の母親か――いつもなら、すかさずそうツッコミを返していたのだろうか。
けれど智乃の寂しげな口ぶりが、日頃から意図せず頭の片隅に追いやっていたその事実に、俺自身を向き直らせる。
大学に入学して、一人暮らしを始めてから三ヶ月――その間、俺たちは。
「大学生って、もっと楽なイメージだったけど……入ってみたら、なかなか忙しいよね」
「……ああ」
講義や課題はもちろん、バイトやサークルの人付き合いだってある。俺と智乃は下宿先こそ徒歩で行き来出来るほどには近いが、通っている大学は別なのだ。……そういえば、最近はSNSでも擦れ違うことが増えていたように思う。
それぞれにやることがあって、時間に追われて。そうしていつも切り捨ててしまうのは、こういう何でも無いようなありふれた時間。
「一年目、だしな。今は、お互い色々大変だよな」
「うん……分かってるんだけどね」
分かっている。きっと、自分だって。
それが普通だからと、口先はそうでも、本当に言いたいことは一緒のはずなのに。
「何か……昔みたいに、たくさん会えなくなったなって」
騒がしくも、当然時間は滞りなく流れていく。今日だって、もしいつものように連絡を見逃していたら、高熱と闘う智乃を一人にさせてしまう所だったのだ。
薬の残りも少しと言っていたし、下手をしたら――
「――……遥也?」
「!」
いつから拳を握っていたのか。解いた手の平が少し汗ばんでいた。
智乃が心配そうにこちらを見ている。多分、俺は途中から黙りこくっていたのだろう。
「悪い。ちょっと考え事してて」
「そ、そう……?」
つい動揺してしまった。智乃が気付かないはずもなく、これでは余計に心配させてしまうだろうか。
「智乃。薬、どこにしまってある?」
「台所の戸棚に……」
「……そっか」
幸い、智乃の手元の鍋はもうほとんど空だったので、
「薬と、あと湯冷ましも持ってくるから。ちょっと休んでてくれ」
空いた食器を受け取り、俺は少し早足で台所の方へと戻っていった。
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