一時、日常を抜けて

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 規定の二錠を口にし、続けて湯飲みを飲み干してから、智乃は一息をついた。 「そういや、もうじきテストか」  何となくそう呟いてみた所、 「うっ……あんまり言わないでぇ……」 「その様子じゃ、風邪引いてる暇もなさそうだな」 「早く治さなきゃ、日本史がぁ……」  相変わらずか。ちょっとした年号とかなら、あるいは教えられるかもしれないけれど。 「悪かったって。今は、まあ休んでる以外ないしさ――」  身体が良くなるのは本当に結構なことだ。ただ、それと同時にまた日常は始まる。どちらも当然のことだけれど。  それでもこのままで、また互いに擦れ違ってしまうだけだというのなら。 「その先の、夏休みの予定でも考えといたらいいんじゃないか?」 「……あ」  どうやら気付いたらしい。まあ長期休暇とはいっても、ずっと暇にしていられるわけではないだろうけど――、 「は、遥也っ!」 「落ち着け。また熱ぶり返す――」 「夏休み、うちに泊まりにこないっ!?」  ……ひょっとすると、いや間違いなく、今のは一種の爆弾発言だったのでは。 「いやまずいだろ」 「えっ、何で!?」 「普通に」 「普通に!?」 「いいから落ち着けって!」  この警戒心の薄さ……こちらも相変わらずだが、これでよく今の生活を許してもらえたものだ。 「うー……今日みたいに、またゆっくり話せると思ったのに……」  ここまで露骨に肩を落とされては、何か申し訳なくもなるが、 「長いんだし、普通に遊びに来れるだろ。別にどっかに出かけたっていいし」 「えっ、どこに!?」 「いや、それはまた今度――」  ――駄目だ。  ハッと我に返るように、言いかけた言葉を飲み込む。そしてわざとらしく一つ咳払いをし、訂正した。 「時に智乃、今眠いか?」 「? ん~、朝からずっと寝てたから……」  ありがちなことだ。本当は、出来る限り安静にしていた方がいいのだろうけど。 「じゃ、とりあえず眠くなるまで話すか?」 「! うんっ、そうしたいっ!」 「ただし、横になって大人しくしてろよ」 「はーいっ!」  快方に向かっていることを窺わせる元気な返事。……でも子供か。  心の中でだけそう突っ込んでおくことにした。 ――――――――――
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