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結局会話は一時間ほど続いた。最後までは行かなかったが、途中から智乃の目が開いているか怪しくなってきたので、さすがにその辺りで切ることにしたのだ。
久し振りに満ち足りたような感覚だ。けれど……そろそろ帰るとしようか。
立ち上がっても、布団の中の智乃に反応はない。部屋の明かりを豆電球だけにしてから、忍び足で玄関へと向かう。
「……遥也ー?」
が、予想外にもそれに続く足音があった。振り返ると半分寝ぼけているのか、来たときとはまた違う意味で不安定な足取りの智乃がついてきていた。
「お前な。病人は見送りなんていいから、とりあえず寝て――」
「じゃなくてー……鍵、閉めないと……」
「……あー」
珍しく正論だ。さすがに戸締まりくらいはしっかりしていたようで、少し安心する。
「じゃ、また今度な」
「うんー……またね」
出来れば、また近いうちに。
外に出て、鍵のしっかり閉まる音を聞き届けてから、ようやく俺は家路についた。
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