167人が本棚に入れています
本棚に追加
メモに記された彼女の目的地は、駅前の商店街を抜けてすぐ、住宅街の中に最近建てられた大きめのマンションだった。
それほど距離もなかったので、タクシーではなく徒歩で向かう。背後から、スーツケースを引くゴロゴロという音がついてくる。オレが持つと言ったのに「道案内に加えて荷物運びまでして貰う訳にはいかない」と彼女が固辞したからだ。
二人で、駅前の商店街を歩く。会話はない。
初対面の外国人と何を話せば良いのかわからないし、そもそもオレは口下手なので、相手が日本人だったとしても気の利いたトークなんて浮かばなかっただろう。
せめて、買物に便利なスーパーマーケット、ドラッグストア、100均ショップの位置くらいは教えてあげたら良かったのに……と今なら思うが、この時は彼女の状況も不明だったし、なによりもとにかく緊張していた。
その理由は、言うまでもない。振り返ると、金髪翠眼の女性。
肩からショルダーバッグ、片手でスーツケースを引き、キラキラした眼差しであたりを見回しながらついてくる。好奇心が強いタイプなのか。
そして、オレの視線に気付くと微笑み返してくる。道案内しているオレへの愛想笑いだ。そんなことはわかってる。わかってるんだが……
最初のコメントを投稿しよう!