第三章 / Tercer Capitulo

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 くぐもった鳴動音が部屋のどこかから聞こえて、思考にカットインしてくる。  さっき脱いだジーンズのポケットの中で、携帯電話が着信を知らせているのだと気付いて、慌てて手を伸ばす。発信者を確認する余裕もないまま、通話ボタンを押して耳に当てる。 「日向(ひむかい)です」 「そんなのわかってるわよ、このドヘタレが」  バー「delay(ディレイ)」の店長の野太い声が聞こえてきた。なんだか剣呑な雰囲気だ。 「なんだ、店長ですか。あの、いまちょっとダベってる気分じゃないんで、また今度に……」 「救い様のないバカね。いまヴィっくんが店に来てるのよ。いい? よく聞きなさい」 「ヴィクトルが?」 「ついさっき、ヴィっくん宛てにアスティちゃんから連絡があって。彼女ね、明日の飛行機で帰っちゃうそうよ。今夜の終電で移動して、それでもうサヨナラよ」  反射的に時計に目を向ける。上りの最終電車が出るまで、残り30分しかない。また携帯電話が鳴動する。  今度はメールの着信。発信者はアスティ。電話の向こうでまだしゃべってる店長との通話を繋いだまま、メールを開く。
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