第一章 / Primer Capitulo

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 改札を抜けると、駅の規模に見合った慎ましいロータリーがある。どれくらい慎ましいかと言うと、タクシー数台、路線バス1台で許容量を超える。  要するに、狭い。  そんなロータリーで、オレの進行方向にちょっとした異物が置かれていた。海外旅行に使う、大きなスーツケースだ。銀色の金属素材が夕陽を鈍く反射していて、なかなかの造形美だと言える。  そして、その持ち主と思しき人物は、タクシーの窓から車内に頭部を突っ込んでいる。どうやら運転手に行き先を伝えようとしているらしい。  マネキンの様な身体のラインはスーツケースに劣らぬ造形美で、思わず視線を向けてしまう。外国人だろうか。  しかし、オレは自分のジンクス(なぜか外国人に、よく道を尋ねられる。そんなにお人好しに見えるのだろうか)を思い出すと、その人物の後ろを足早に通り過ぎようとした。  その瞬間、背後からふいに声を掛けられる。
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