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やはりと言うか、ジンクスは高い再現性を持つからジンクスなのだ。
「Hey! スミマセン!」
「スミマセン」は丁寧語で下手に出てる感じだが、呼び掛けの「Hey!」がそれを台無しにしている。残念な日本語だ。
逡巡するが、困っているらしい外国人を無視するには、その日のオレは機嫌が良過ぎた。時間にも余裕があった。
「……なに?」
可能な限り無愛想に、低いトーンで返事をしながら振り向く。せめてもの抵抗。
しかし、振り向いている時点で、既に敗北は決定している。いや、むしろ惨敗だった。
スッと伸びた首筋の上には小さな頭部が乗り、明るい色素の髪は少し癖っ毛なのか、肩甲骨の辺りで自由に踊っている。
眩しそうに細められた瞳は夕陽を湛えて琥珀色に輝き、北欧調の青い花柄のワンピースに包まれた長身は伸びやかで、彫刻の様に無駄がない。
そこに立っていたのは、日常に飛び込んできた非現実の存在。
オレは不覚にも、言葉を奪われてしまった。
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