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願い空しく、午後から大きな雨粒がオフィスのガラスを濡らしている。
終業時刻まであと1時間ほどだ。このまま止むことはないだろう。
雨脚が強くなる前に帰宅したい。仕事を残さぬようにパソコンの画面に視線を戻した。
「田崎さん、今日はこの後デート?」
よほど、焦って入力作業をしているように見えたのかもしれないと手を休めて隣の彼女へ向いた。
「違うの。雨が強くなる前に帰りたくて。」
彼女は回転イスごと身体を寄せてきて、私だけに聞こえるようにウソをついてもダメだと好奇心を隠さない。
「残したら私がやっておくから定時で帰っていいよ。そのかわり、私の時はお願いね。」
私が否定しても一切聞き入れず、残った仕事を奪ってしまった。そして、定時になると私の代わりに帰宅すると課のみんなに告げた。
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