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学生時代に付き合ったことはあった。それはお互い恋愛をするということに憧れた結果、手近で相手を見つけただけという幼いものだ。
当然長く続かず、その後は若さという勢いもなくし、ただただ過ごしてきただけだ。
誰が見ても素敵な彼に近づく方法を思いつかないどころか、自分が隣に並ぶなどと考えもしなかった。
その彼が私に笑ってくれている。私に向けて手を振った。それにそばに来ようとしている。
胸が上下していると錯覚をするほど心臓の振動は激しさを増していく。
「お疲れ、田崎さん。」
近づきながら話しかけてきた。珍しく早く帰宅できること、私の傘がお姉さんと同じだとユーモアを交えて話してくれた。
一言一句覚えておきたい。可能ならば、スマートフォンでこっそり会話を録音しておきたいくらいだ。
彼は私の横に自然と並び、到着した列車に乗った。
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