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夜中にもかかわらず、父は遠慮するなと迎え入れてくれ、親子で酒を酌み交わす。
「お前も立派になったな。母さんも喜んでいるだろう」
父の嬉しそうな言葉を聞き、今朝見た夢を思い出した。
「僕は、母さんを見つける事が出来なかった……」
そう呟くと、父は立ち上がって窓の外を眺める。
「庭に出て見ろ。今日は七夕……都会じゃ見れない星空だぞ」
「星空? ははっ……母さんに会えるかな?」
「きっと会えるさ」
酔い覚ましも兼ねて庭へと足を運び、空を見上げた。
控えめに主張する月と数え切れないほどの星が瞬き、柔らかな光に優しく包み込まれる。
「母さん、そこにいるの? 違うよね……ごめん。ずっと一緒にいるって約束したのに……僕は見つけられなかった。近くにいるのは知ってるよ。僕の負けさ。だから、隠れてないで……出て来て……」
僕の声に気づいたのか、照れた月は雲に隠れてしまった。
暗闇に包まれ星の光を頼りに見渡すと、背の低いハナミズキの影に気付く。
恥かしがり屋の月は雲の隙間から少しだけ顔を出す。
照らし出されたハナミズキの枝に、古びた鳥の巣箱が浮かび上がった。
それは、父と一緒に作った小鳥の巣箱。ハナミズキの枝に乗せ、仲睦まじい小鳥の親子を観察していた思い出が甦る。
幼い頃は高く見えた巣箱も、手を伸ばせば届きそうな位置にあった。
もう小鳥はいない。分かってはいるけど、枝に手を掛けて覗き込んだ。
……心臓が跳ね上がる。
父は何と言っていた?
庭に出て見ろ……星空……きっと会えるさ……
携帯電話のライトで照らすと、巣箱の中には見覚えの無い木箱があり、蓋を開けると可愛らしい封筒が入っていた。
封を開け便箋を取り出し、月明りを頼りに目を走らせる。
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