かくれんぼ

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「雅人は寝ちゃったのか?」  病室に戻ると、息子の雅人がスヤスヤと寝息を立てていた。母親の手を握り締め、抱きかかえようとしても決して離さない。 「ふふっ……それで、どうだった?」 「えっ? ああ……良くないらしい。でもさ、何とかなるよ。どんな病気だって治せる時代だ。雅人には母親が必要なんだから、頑張らないとね」 「そうね」  告げられた病名は、五年間の生存確率が十パーセント以下という重い病気だ。昨年までは元気だった妻が痩せ細り、たった半年で病院のベッドから動けなくなる。夢でも見ているのかと思いたいが、目覚める度に、いつも辛い現実が待っていた。  せめて気持ちだけは強く持とうと頑張っても、ふとした事で涙が溢れ出す。でも、それを見せる訳にはいかない。 「ねえ、あなた。庭のハナミズキはどう? あの子も雅人と一緒で小さいから、ちょっと不安になっちゃう」 「元気だよ。一昨年に作った巣箱を覗いてみたら、シジュウカラが住み付いていたんだ。今年は無理だけど、来年は雅人と一緒に見よう」 「まあ、素敵ね。あっ、そう言えばお願いがあるの。レターセットを買ってよ。私に似合う可愛いのをね」 「可愛い? 自信がないなあ……」 「ふふふっ……冗談よ。普通のレターセットでいいわ」  この優しい笑顔を失ってしまったら、私はどうなるのだろう?   魂を削り取られるような不安は、最悪な形に姿を変え迫っていた。
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