かくれんぼ

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「まー君、一緒に帰ろ。あっ、そうだ! 今日はパパお休みなの。だからパパの大好きなカレーなんだよ。まー君も一緒に食べようよ」 「うん!」 「こっ、こら。帰るぞ、雅人」  慌てて雅人を抱きかかえ、すみませんと頭を下げた。 「あら、もし宜しければご一緒にどうですか? 作り過ぎちゃって、食べきれないんですよ。早苗も喜びます」  是非と言われて断る理由も無く、申し訳なさそうに身を縮めながら鈴木さんの家へと向かう。 「いらっしゃい。さあ、遠慮なく」  鈴木さんのご主人は爽やかな笑顔で迎え入れてくれた。  一家団欒の温かな食事風景に懐かしさを感じる。目頭が熱くなり、スプーンを持つ手が止まった。 「妻と早苗から話を聞きました。私たちに出来る事があれば何でも言って下さい」 「何故……ここまで良くしてくれるのですか?」 「早苗が言ったんです。まー君のお嫁さんになるって、まー君のママと約束したの。だからパパも協力してよ……ってね。可愛い娘の頼みは断れません。父親として、ちょっと妬けますよ」  止めようと思っていた涙が滝の様に流れ落ちた。 「あり……ありがとう……ござ……ございます……」 「一人で抱え込んでは駄目です。雅人君の為に、使えるものは全て使うくらいの気持ちで頼って下さい」   思っても見なかった心遣いに戸惑い、何度も繰り返し頭を下げる。  私と雅人を受け入れてくれる存在は大きかった。仕事でどうしても抜けられない時は、鈴木さん夫婦が雅人の面倒を見てくれる。保育園や小学校など父親にとっては未知の領域も、丁寧に必要な事柄のみを纏め、家族の様に助けてくれた。  本当に感謝してもしきれない。妻の繋いだ優しい絆は、未来へと進む勇気をくれた。  お蔭様で、雅人は立派な男へと成長する。親バカと言われるかも知れないが、自慢の息子だ。  一人暮らしを始めた雅人から、初めての給料で買った日本酒が贈られる。特別な日に飲もうと考え、戸棚の奥へと大事に仕舞っておいた。  そして、十年ほど経ったある日。雅人と早苗ちゃんが我が家に突然現れた。
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