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「そーじゃねぇんだけどよ」
そう言って再び思い出すあの声。
ふと、また聞いてみたくなる声。
美しい人の声とは、ここまで人に影響を与えるものなのか。
「つーか、お前今日部活は?」
「あー。なんかグラウンドが整備で使えないらしくてな。それにここ最近試合続きで疲れてるだろうからって今日は休みだ」
「ほう。そりゃよかった」
「なぁ裕翔」
そう言って晴敏は裕翔の前に回り込む。
「なんだよ」
「久々にお前の歌、聴かせてくれないか?」
「あん? 俺の歌そんなに聞きたがってたことあったか? お前」
ここ何年も裕翔と晴敏は一緒につるんでいたが、ここまで晴敏が裕翔の歌に興味をもったことはなかった。
そもそも、歌自体もあまり聴かないらしい。
晴敏も運動バカというか、趣味そのものが野球みたいな男だった。
「いや、最近野球だけじゃだめだと思ってな。いろいろ趣味を広げてみようと思ったんだ。そんであんまり聴かなかった歌を聴こうと思ってな」
「そんで何から聴いて良いのか迷った挙句、ちょーどいい奴が身近にいたじゃねーか、と」
「ご名答」
「別にいいけどよぉ。俺の作曲した歌なんてお前が気に入るかどうかわかんねーよ? 最近曲作りができてないくらいに不調だし」
「そうか、ユウもそうなのか」
「あ? も、って?」
そう聞くと目の前の席に座る晴敏。
「いやな、俺も最近野球がだめでな。だから気分転換に歌でも聴こうかと思ったんだよ」
「珍しいな、ハルが」
「誰にだって来るもんだろ。いままで来なかった分、デカイのが来た気がする」
「そんなにかよ……。んまぁ、これから部室行くから来いよ」
「おう、わかった」
そう言って2人は立ち上がり、その部室に向かう。
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