第一章 聲と出会い

6/7
前へ
/10ページ
次へ
「んで、結局今日はどうしたんだよ」 「いやー、なんつーか。運命的な出会いっつーか、そうじゃないっつーか」 「中途半端に説明武装だなおい。それに聞いてる限り女の子に一目惚れしてる様なんだが?」 「だからちげぇって」 そうこう話していると、部室についた。 そこは部室と呼ぶにはなんとも小さく狭く、5人程が入れれば十分のような部屋だった。 「相変わらず散らかってんな、お前の部屋みたいだ」 「うるせぇ。ほら、そこ座れや」 そこらに転がってるパイプ椅子を晴敏に渡し、裕翔はくたびれた木の小さな椅子に座る。 ここにいつも居るのは裕翔1人。 部活、というわけではなく、彼1人のための空き部屋のようなものである。 ここや隣のちゃんとした教室を使っていた頃の軽音部は、裕翔がこの高校に入学する二年前には廃部していて、今はこの有様である。 「んしょ、んじゃあ今準備するわ」 そう言って裕翔は、ケースからアコースティックギターを取り出し、チューニングを始める。 裕翔の持っているギターはとても古く、ところどころ傷が目立っていた。 裕翔のチューニングする様子を、晴敏はじっと見ていた。 素早く6弦までチューニングを終わらせると、裕翔は喉を鳴らし、大きく息を吸う。 ───ひとりの彼が、歌を歌い始める。 カポを3フレットにはめた、切ないアルペジオが、狭い部屋と二人を包み込む。 それはとても悲しい歌だった。 辛く苦しい道のりを苦しみながら、歯を食いしばって歩むような歌。 お世辞にも明るい歌には聞こえない歌だ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加