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「んで、結局今日はどうしたんだよ」
「いやー、なんつーか。運命的な出会いっつーか、そうじゃないっつーか」
「中途半端に説明武装だなおい。それに聞いてる限り女の子に一目惚れしてる様なんだが?」
「だからちげぇって」
そうこう話していると、部室についた。
そこは部室と呼ぶにはなんとも小さく狭く、5人程が入れれば十分のような部屋だった。
「相変わらず散らかってんな、お前の部屋みたいだ」
「うるせぇ。ほら、そこ座れや」
そこらに転がってるパイプ椅子を晴敏に渡し、裕翔はくたびれた木の小さな椅子に座る。
ここにいつも居るのは裕翔1人。
部活、というわけではなく、彼1人のための空き部屋のようなものである。
ここや隣のちゃんとした教室を使っていた頃の軽音部は、裕翔がこの高校に入学する二年前には廃部していて、今はこの有様である。
「んしょ、んじゃあ今準備するわ」
そう言って裕翔は、ケースからアコースティックギターを取り出し、チューニングを始める。
裕翔の持っているギターはとても古く、ところどころ傷が目立っていた。
裕翔のチューニングする様子を、晴敏はじっと見ていた。
素早く6弦までチューニングを終わらせると、裕翔は喉を鳴らし、大きく息を吸う。
───ひとりの彼が、歌を歌い始める。
カポを3フレットにはめた、切ないアルペジオが、狭い部屋と二人を包み込む。
それはとても悲しい歌だった。
辛く苦しい道のりを苦しみながら、歯を食いしばって歩むような歌。
お世辞にも明るい歌には聞こえない歌だ。
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