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こっそり頬を紅潮させていると、秋波を帯びた視線で問いかけられた。
なんでもないです、と返せば、スッといつもの杉崎に戻った。
「なんや、おかしいなぁ」
「なにがだよ」
「この間、杉崎課長になるちゃんが連れていかれたときから、なんか変やわぁ」
訝しむ難波を無視して、成瀬は自分の仕事に集中した。
この頃は仕事をしていても、ずっとやさしい視線を感じている。
煩わしいとは思わないが、背筋がゾクリと興奮を覚えることがあった。
こんな場所で……と、思いつつも、自分がどれだけ杉崎を意識しているか自覚する。
ポーン、と画面の端に社内メールの窓が新着を知らせる。
成瀬はなに食わぬ顔をしてその吹き出しをクリックした。
【今日は俺のマンションで残業だ】
そんなコメントが一行だけ表示された。成瀬は思わず口元を緩ませる。
【エロおやじ】
そんな憎まれ口のようなひとことを返してから、少し考えた成瀬はカタカタと再び文字を打つ。
【その残業、意味深すぎ。明日、休日だから別にいいけど!】
送信してから、杉崎の方へ視線を向ける。
彼はとんでもなく色っぽい流し目でこちらを見ていて、成瀬は一人羞恥に耐えるのだった。
【END】
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