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「君は自分で色を作ったことがあるかい」
取り上げる彼の指に若干見惚れた自分を呼び戻す。
「え、色?」
「そう、自分で作ったことある?」
私の持っていた絵の具や色ペンの色を思い出してみる。えぇと、
「なにも石や花から作ったことがあるかなんて聞いてないよ、ある色とある色を組み合わせて、自分の欲しい色を作ったことはある?」
意図的には、ない。
だってこの世界にはなんでもあるもの。
りんご色、熟れる前のレモン色、木の色だって何十色もある。
欲しい時にそれを買えばいい。
私には必要ないけど。
「ないや、だってなんでもあるし。必要なときにその色を買えばいいし。」
「そうか」
彼は笑って私のデバイスと辞書の重さを比べるように手を動かしている。
手持ち無沙汰になった私はその辺にある本を手にとってこれまた古めかしいソファに寝っ転がりながらページをパラパラとめくる。これ何語だろう。
「僕はね、色ができる瞬間が好きなんだ。」
色ができる瞬間。
彼を見つめる。
くせっ毛で古めかしい服装、歴史の本で見たことある、「めいじ」とかそういうころの「ようふく」みたい。
そしてこれまたアンティークなメガネ。
口元には笑みとそれによってできる片方だけの笑くぼ。
彼とここの空間だけ昔にタイムスリップしてるみたいだ。
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