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「雨はもとをたどれば海からきているんだって、この話は前にしたね。じゃあ今日は雨の日の過程の話をしよう。」
そういうと彼は窓際に立ち寄り、窓ガラスの水滴を指でなぞる。
そうして私にむかってなにしてるの早くこっちにおいでと手で招く。
「水滴が他の水滴とくっついて大きく重くなって、窓を木の枝みたいに流れていく瞬間の過程だよ。」
私はある水滴に目標を定めてじっと見つめる。
すると近くにあった水滴が磁石みたいにくっついて大きな水滴になる。
まわりの水を食べてるみたいだ。
やがてその水滴はいまにも流れていきそうな大きさになり、よし、いけ、いけとなんだかそれを後押しする気持ちになる。
そしてしばらくしてそれはすっと木の枝みたいに流れてやがて枯れていくように消えた。
「見えたかい」
いきなりセツナさんの声が近くに聞こえてびっくり、なんて顔には出さない。
「セツナさん、ちかい」
この人はこういう人だ。
会ったばかりの頃は驚きもしたけれど、いまになっては慣れたものだ。
「あれまたか、ごめんね」
彼はそう言ってかかんでいた背を伸ばす。
私の背が低いんじゃない、彼の背が高いのだ。
「確かに、この瞬間はすきです。色の瞬間は超えられませんけど」
「そうか、じゃあまた探してこないと」
そう言うセツナさんはなんだかとても楽しそうだ。思えばあれが瞬間の過程に彼が言う「美しさ」を感じた最初の瞬間だったかもしれない。
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