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ベッドの下に散らばった洋服をかき集め、いそいそと身に纏う僕を尻目に女が電話を掛けている。その声を聞きながら僕は、ふわふわとした非現実的な時間から目を覚ます。僕は彼女の痕跡を、彼女は僕の痕跡を、シャワーで完璧に洗い流した僕らはこの部屋を出れば赤の他人となる。
「じゃ、出よっか」
電話を切ると彼女は僕に向き直る。迎えの車はもう来ているらしい。きっとこの女はまたすぐに、違う男の性欲を満たしにどこかへ向かうのだろう。それに対して特段思うこともない、同情も独占欲も沸かないし、例えそんな感情を持ち合わせたとてこの女にとっては下世話なだけだ。
セックスのあとの甘い余韻なんかない、必要もない。僕らの関係はデリヘル嬢とその客、ただそれだけだから。
「また呼んでね」
サービス終了の間際、重い腰を上げた僕の頬に彼女はキスをする。金と体で繋がる簡単かつシンプルな関係。後腐れもなんにもない。ふたりの体液で生臭いラブホテルの部屋を出て、僕は素知らぬ顔をして自分の部屋へと帰る。
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