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「ベランダで野菜育ててみようかなあ。買うより安上がりだよね」
奈波が突拍子もないことを言い出すのには慣れていても思わず面食らう。そして、火を見るより明らかな結末に僕はげんなりする。
「やだよ、どうせ僕が育てる羽目になるんだから」
「お願い! ちゃんとお世話するから」
「週末になってもそのやる気が残ってたらプランターとか見に行ってみたら。お腹空いたから食べよう」
促して、手を合わせる。命をいただくために手を合わせる。農家の皆さんありがとう。僕は久しぶりに食べるにんじんに対して少しだけ動揺しながら手を合わせる。ちゃんと火が通っているといいな。失礼極まりないことを思いながらスプーンを手に取った。茶色い液体と、白いごはんをすくって口に運ぶ。にんじんだけじゃなくて、どうやら玉ねぎも入っていたらしい。奈波はきっと玉ねぎを切っている間、止まらない涙と格闘していたに違いない。想像するに易い光景を思い浮かべて一口、また一口と食べ進めていく。
野菜を食べられるようになってもやっぱり奈波の舌は子供のままらしい。甘口のカレーに少しだけ安堵しつつも、野菜が入ったことで旨味を増したカレーになんとなく寂しさを覚える。
食が豊かになることも、奈波が料理の腕を上げることも僕にとっていいことのはずなのに、僕はちょっぴり美味しくなったカレーを素直に美味しいと言えなかった。
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