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仕事が終わって携帯を見ると奈波から連絡が来ていた。
急な飲み会が入って今日は帰りが遅くなるとのこと。昨日のカレーが冷蔵庫に残っているから食べてくれ、という旨の連絡だった。
昨日の時点でわかっていたら、デリヘル呼ぶの今日にしたのに。なんて誰にするでもない悪態を心の中でひっそり吐いてみる。
今日奈波が帰ってこないのは決して奈波のせいじゃない。今までもこんなことはあった。例えば僕らが付き合って三年目の記念日とか、僕が店長に昇進した日とか、そういう大事な日にだって奈波と会えない日はあった。同じ家に住んでいるのにも関わらずだ。
奈波は就活を期に変わった。就職してからはもっと変わった。奈波と出会って四年、付き合ってから三年、同じ家に住むようになってから二年、大学一年生だった未成年の少女がいっぱしの女性へと変わるくらいには年月が経っている。ひとりじゃなにもできなかった女の子は、今や家事に仕事に毎日目まぐるしく過ごす大人へとなった。それなのに、なぜか僕は奈波の変化を受け入れきれずにいる。
出会った頃の奈波は、自分のことを「ナナ」と呼んでいた。ナナミという読みであるにしても、奈波という表記であるなら区切りはナ・ナミの方が自然であると疑問を抱いていたけれど僕はその違和感が好きだった。就活を重ねるごとに、奈波は自分のことを「私」と呼ぶようになった。
その頃から僕たちはほんの少しずつズレていったように思う。
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