見上げた夜空に

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夜空を見上げて思う事は、彼のことばかり。 ああ、この気持ち、どうして伝えられないんだろう。 二駅さきの街に住む彼。 今すぐに会って、彼に全てを打ち明けてしまいたい。 私は、さほど大きくない胸に両手を当て、この夜空に願いを込めた。 その瞬間、夜空の最も輝く星が何度も瞬き、私の立つ川原に降ってきた。 その星は、私の目の前で大きな列車となって、キラめく音を撒き散らしながら、停車する。 「お嬢さん、お乗りください、彼の元へお連れしましょう」 光の粒をまとった列車から、夜空色の制服を身につけた影が、私を導く。 お気に入りの小さなリボンのついた青いパンプスが、ただ彼に会いたいと、その列車に乗り込んだ。 列車は滑るように夜空に舞い上がり、私ごと夜空の光になる。 まるで、夢のような時間だけれど、 私には、これが夢じゃないとハッキリわかる事となる。 今なら、彼にこの想いを伝えられる。 心から、そう思えた。 列車は、ときめく想いを乗せて、彼のマンションのベランダに到着した。 「ありがとう、きっとこの気持ち、彼に素直に伝えるわ」 「ええ。そうしてください」 私は、列車の光るドアの前に立つ。 「……」 ……しかし、ドアが開かない。 「……あの……ドアを開けてくれる?」 「ええ、お代を頂いてからになりますので」 「お代?  うふふ……私のときめきは、もう席に置いてるわ……車掌さん?」 「いいえ、8600円ください」 ……結構、高い。 「……そんなにするの?」 「ええ、特別仕様なので」 「二駅分の距離なのよ?」 「ええ、ただこの列車は、世界中、どこまで行っても同じ値段なんですよ」 ……あぁ……あたし、損してる。 どうして、彼は、ハワイに住んでいなかったんだろう。 こんな薄汚れた街なんかに住んで。 「……スイカは……つか…」 「使えません。現金のみです」 私は、仕方なく8600円を支払った。 これで、今月は、課金できないだろう。 列車は、私を彼の部屋のベランダに残し、再び夜空の星となった。 でも、これで彼と一つになれるなら、安いものだ。 私は、さほど大きくない胸を押さえて、彼の部屋の窓を叩く。
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