ガラス窓の絵

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ガラス窓の絵

 友達の家の窓ガラスには、総て植物の絵が描かれていた。  見る限り、全部の部屋の窓ガラスに緻密な植物が描かれている。何か店を営んでいるならまだしも、一般家庭なのにどうしてこんな装飾がされているのか。  聞いてみたけれど、おじいさんが絵を描いたことは知っているが、それ以外は判らないと友達は言った。  俺には絵心などないけれど、植物の絵は実に緻密で、枝と判っていても窓の外に植物が生い茂っているように見えることがある。  おじいさんは絵が好きな人だったのかな。何かこういう仕事をしている人だったのかな。  そんなことを考えていたら、窓の外に虫が飛んでいるのが見えた。  ガラスに貼りついたのを見て、もしやこいつは、絵の植物を本物と間違えたのかと思った瞬間、描かれている植物の蔦が凄い速さで動き、虫を捕えて花の中に押し込んだ。  目をこすり、じっと絵を見つめたが、絵は絵だった。たった数秒前のことなのに、虫が飲み込まれた膨らみの片鱗すらない。 「どうかしたのか?」 「あ、えっと・・・この近くって、虫とか多い?」 「? ・・・あんまりいないと思う。見かけないから」  いきなり妙なことを口走るなぁという顔をされたけれど、俺の中ではその質問は意味のあることだった。  そうか。ここいらにはあまり虫はいないのか。  元々ならいいけれど、もしかしたらその理由は・・・。  友達のおじいさん、虫嫌いだったのかな。その念が実を結んだのなら凄いけど、まずそんなことはないから、この絵は一体どういうふうに描かれたのかな。  それを友達に聞いてもいいものかどうか。・・・いや、さっきの様子からして知ってそうにないし、だとしたら住人に聞かせるのもどうかという話だから、そっと心に秘めておくことにしよう。 ガラス窓の絵・・・完
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