さよならファーザー、また会う日まで

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 結婚式当日、父はなんとか無事に最後まで参加出来た。  あまりの痛みに料理を口にすることさえ出来なかった父だったが、それでも私と一緒にヴァージン・ロードを歩いてくれた。  式場の人が扉を開ける前、父と腕を組んで並んだ。  隣に立つ父が、こうして今なお生きている。当たり前のようで、決して当たり前ではない現実が嬉しくて、ヴェールの先に見える教会の扉が既に滲んで見えた。  前を向いたまま、父に今まで育ててくれてありがとうともう一度告げた。  恐らくその時も痛くて堪らなかっただろう。そんな中、父はとても穏やかな声で幸せになれと言ってくれた。  昔から、私達子供の前で絶対に弱音をはかない人だった。強く揺るがない父がただそこにいてくれるだけで、母とは違う安心感がいつもそこにはあった。  私は幼い頃から、お父さんっ子だと言われていた。父もそんな私を目に入れても痛くないくらいに可愛がってくれた。  一時は反抗期みたいなものがあって、父から遠ざかっていたこともあった。随分と酷いことも言って傷付けた。  扉が開いてヴァージン・ロードを歩く私達の姿を見て、皆が目に涙を浮かべながら笑顔で迎えてくれた。  結婚式での両親に宛てた手紙は、泣いてしまって読めなくなると思ったので短めにした。父も母も顔がぐしゃぐしゃになるぐらいに泣いていて、その姿を見た瞬間、必死に堪えていた涙が一気に溢れだした。  両親に宛てて読んだ手紙は便箋1枚だったけれど、それとは別に後で父にもう1つ手紙を渡した。  日記帳から拾った父と私だけしか知らない様々な想い出などを織り込んだ手紙だった。私が父に出会えて、どれだけ幸せだったかを文章で伝えたかった。  発達障害である扱いづらい自分を受け入れてくれ、共にこれから先の人生を歩いてくれる心優しい人に出会えた。  そして大切な命も授かり、沢山の人に祝福されている綺麗な自分の姿を父に見せることが出来て良かった。  お父さん。私は今、とても幸せです。そう伝えたかった。
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