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「ん?私は君の願いを叶える者だよ」
「はっ……嘘よ、こんなっ……」
「『美しく』なりたいと願っただろ?」
睨み付けるだけで気力も殆ど無く、半端な怒りを表す私を見下ろして男は穏やかに爽やかな笑顔を張り付けてその手に赤茶色の生き物を乗せ、満足気に瞳を揺らす。
生き物は顔の半分が目玉で、潰れた鼻腔だけの鼻に、嘴の象をした口──骨ばった体を丸め、男の指に頭を擦り付けていた。
到底[可愛らしさ]とは無縁なモノにしか見えない。
「これで君の願いは叶ったも同然!
満足して貰えると思うんだけどなぁ~。
……ではこれにて」
床に横向けて転がる私に不可解な言葉を残して、男は片手を大きく振って前屈し、おどけて片手に乗せた生き物を掲げる様を見せてその場から忽然と消えた。
何が起こったのか。
何も起こっていなかったのか。
あれだけ声を発して騒いでいたにも関わらず、家族は誰一人として起きてはいない。
唖然とする私は何事もなかったかの静寂漂う自室の中で…………意識を失くした。
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