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あの日、意識をなくした私は床の上で目覚めた。
朝になっていた。
ベッドに横たわる事もなく、ただ床の上で吐瀉物まみれでもなく寝転がっていた。
夢でもみていたかのように、何事もなく朝を迎えていたけれど、昨夜の事が夢でなかった証に喉は痛み、体の中を這いずり上がってきた感触を覚えていた。
当然、思い出して洗面所に駆け込み吐き出す物もなく嘔吐した後、見上げた視線の先にある鏡を見て目を見開いた。
……別人のような顔をした私がいたのだ。
いや、顔のパーツは見慣れた自分のそれだったのだけれど、どこか、何かが違って見えた。
頬を擦り、瞬きを繰り返しても、私は私なのに、私ではない感覚に驚く。
『さあ、願いは叶えたよ……』
鏡に映る私の背後にあの男が映り、肩に手を置きニタリと笑んで囁き掛けた。
後ろを振り向き確かめても誰もいない。
触れられた感触さえも残っていたのに。
夢ではない。
そう感じとった瞬間、私は心の底から喜びの声と共に笑った。
「ありがとう……」
男が何者かを知った。
暗闇の中で薄灯りに照らされた私を見た彼女は一瞬誰だか判らなかったみたい。
久し振りに会ったのだもの、当然かな。
でもじっと対面してると気付いたの。
そして、手にしてるモノを見て逃げ出した。
「可哀想な人たち。群れていなければ何も出来ない……憐れな人たち」
私がみんな助けてあげるね。
私は次の彼女の元へと笑みを浮かべて歩いた。
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