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狼狽え、怯えて震える目で間近に見る男からはその声に似た甘い異国の香がする。
「願いを叶える対価は……頂きますよ?」
恐ろしさからなのか、身動きもとれず固まる耳元での囁きに思考が停止した。
頭の中に霞がかかる。
息をするのも忘れる。
肩に向かって伸ばされた手がゆっくりと渇いた髪の先をくるりと絡めとる。
見開いたままの視界を埋め尽くす男の顔を跳ね除ける事も出来ず、なすがまま、されるがままに唇に冷たく柔らかな感触を重ねられる。
途端に膝が折れ、ずるりと崩れ落ちた。
力を失くした私の手首を素早く掴む男に、がくりと持ち上げる事もままならない頭を仰向けて虚ろとなった目を注ぐ。
「……な……に、を……」
「対価ですよ~タダで願いを叶えて貰えるわけないでしょ~」
聞きたいのはそんな事じゃない。
吹き込まれた息吹きに体の自由を奪われた。
もとより、恐怖から動けるわけなどなかったが、抗う事すら出来ない。
僅かに残る意識を手放さないようにするだけで、手足を動かす事も出来ない私を男はニンマリと見下ろしてくる。
「さぁて、君の願いは『美しく』だね?
簡単だなぁ~」
パッと掴んでいた手を開いてニヤリと目を細めた男はすっと後退して、在るはずのない空間に、然も椅子が在るが如く悠然と腰を掛け降ろした。
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