『珈琲とカレーの店 かのん』

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『珈琲とカレーの店 かのん』

 金と銀のカップルがモメていた。藤沢優子が『珈琲とカレーの店 かのん』に入ると。  金は、男の方。金髪、ピンクのジャケット、金色のパンツ、金のローファー。色が白い顔に、細く整えた金色の眉を寄せて、二重の瞼をふるわせ、大粒の涙を流していた。耳につけた金色のイヤリングが揺れていた。  向かいの銀は、女。黒髪、銀色のワンピース、生足に銀色のハイヒール。銀のバッグをテーブルの傍らに置き、真っ赤なマニキュアをした手で、テーブルの端を掴んでいた。同じく真っ赤な唇をふるわせ、一重の目で、きつく向かいの男をにらみつけていた。  カップルは、店の入り口に近い席に座っていた。細く奥に長い作りの店で、優子は入り口に一番近い窓際の二人掛けの席が好きだ。窓から、大須観音と大須商店街に行き交う人々が歩いているのが見えるから。  優子は、どうしていいかわからず、つい、いつものように、いつもの窓際に座った。  その向こうには、またもカップルがいた。大学生同士だろうか。優子の息子のように、必死にアルバイトしなければいけない国立大学の学生ではなく、親が金持ちで、お金に困ったことのない私立の大学生のように見えた。二人とも高級ブランドの服を身につけていた。男の子の方は、髪をしっかりセットしていて、大須の商店街では、あんまり見かけない紺のブレザーをカッチリ着込んでいた。女の子は、ミニスカートをはいて、私の彼氏アピールが痛い感じで、やたら媚びて、ベタベタと彼氏に触り、甘えようとして落ち着きがない。  昔からの常連客が多い店で、年輩の客も多いようなクラシカルなカフェで、優子は、そこが気に入っているのに、今日はどういうことだろうと、上着を脱ぎながら、思った。
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