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やるわよ。やってみせるわよ。
ちゃんと調停してきますとも。と、強がってみる。
そのために三ヶ月間の研修を受けたのだ。
しかし、もう一人の自分は弱音を吐き、厳しいと思う。
他省で三年の経験があるとは言え、異動の翌日に現地へ赴き、たった一人でトラブルを解決せよとは厳しすぎないか?
全身にどっと不快な汗が滲み出る。
「あの?」とペパーは藁をもすがるように声を絞り出した。
「バートラを帯同させてもよろしいでしょうか?」
「バートラ? ああ、家事要員ね。キミもベルム族に奉働を与えているのか。構わんよ」
少し安堵し、ペパーは小さくため息をついた。
「カルセドニくん、彼女に資料を」
※
事案の概要はこうだった。
訴えを起こしたのはアグライア。訴えられたのはステラ。ステラは気象・天文など自然界の現象を観測し、様々な災害を予知する役目を担っている都市だ。しかし、今年は洪水警報を出さなかった。そのせいでアグライアは突然襲ってきた洪水に対応できず、死者を出す大きな被害を被ったというのだ。互助互恵の社会にあって、ステラはアグライアから農作物などを受け取っているにもかかわらず、アグライアに対しては何も施さなかったことになる。心情的には、アグライアの多くの人々は、そのことに対しては問題視していない。他者に何かを施すことに喜びを感じるのが互助互恵社会の神髄だからだ。しかし、アグライアの最長老は示しがつかなくなるとの判断から、敢えて提訴に踏み切ったとのことだった。
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