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第三話 悲しき孤高の花
第三話 悲しき孤高の花
「まあ、綺麗なお花だこと」
ペパー=心を癒す、が執務室に入るといつもはむさ苦しい部屋が花で飾られ、少しだけ華やいだ雰囲気に変わっていた。
「どうしたんですか?」
コエンドロ=奉仕が我が魂、の手には不似合いなバスケットが下げられている。
「ご近所さんが花をいっぱいくれたもんでね」
「そういえば」とペパーは思い出す。「最近、この街にはターリップが溢れていませんか?」
「そうなんだよ。ネーデルンが食料支援のお礼にとターリップをお世話になった都市に配っているらしいんだ」
「へえ、そうなんですか」と返事しつつ、部屋を見渡す。「でも、バラバラに置くより、まとめるとボリューム感があって綺麗に見えませんか?」
ペパーは書類棚に無意味に飾られていた壷を手に取り、一輪ずつ置いてあった花を束ねはじめた。
「ほーら、ゴージャスでしょ!」
「おや、流石女の子だね。美的感覚が優れてる」
そうでもないですよ、とペパーが照れていると、室長のマジョラム=知恵で助ける、が扉を開け入ってきた。
「ほう、ターリップか。実にタイムリーだな。その花が元ではじまったことが今、大問題になっているんだ」と言いペパーに視線を投げる。「新しい奉働だ」
お花畑で舞っている自分の姿を想像していたペパーは不思議そうに室長を見た。
「こんなに綺麗な花がどうして問題になるんですか?」
「空想は自分の心だけに仕舞っておいてくれ給え。筒抜けだぞ」
室長はペパーを睨み、背中を気持ち悪そうに震わせた。
なによ、ターリップのお花畑で舞っている自分の姿を想像していただけじゃない。
メルヘンチックな世界を想像してどこが悪いのよ!
室長はペパーの心の反論を無視し大股で自席に近づくや抱えていた書類をぶちまけた。
「何事ですか?」
コエンドロが書類の束を見て、声をあげた。
「フランツが中心となって作りあげた“バルボス”に関する資料の一部だ」
「バルボス?」とコエンドロ。
「まあ、坐り給え」
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