登ちゃんは三日坊主

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代書屋という仕事にも色々ある。 ちょっとした文章を一緒に考えてあげることもあれば、お客さんの考えた文章をそのまま代筆することもある。 代筆だけの方が圧倒的に多いだろう。 先日、上品な老婦人がやってきた。 どこで聞いたのかは知らないが、俺はまともな看板を出してはいない。 できることならば仕事なんかしたくないのだから当然だ。 老婦人は、琴枝さんと名乗った。 俺の顔を見て二、三歩後退りしたが、これはよくあることだ。 「この手紙の代書をお願いしたいのです」 差し出された年代物の便箋を、俺は受け取った。 ごく短い内容だった。 「代筆する必要があるとは思えませんが。充分に綺麗な字ですよ」 誰が見ても美しいと言うに違いない筆跡だった。 琴枝さんは首を横に振った。 「新しい紙に書き直したいのですが、この通りの歳でして。恥ずかしいことですが、手が震えてしまうんですよ」 「そういうことでしたら。少し時間をいただけるなら、今から書きますが、用があるなら後日にしましょうか」 琴枝さんの物腰につられて、俺は滅多に使わない敬語をひねり出していた。 頭から煙が出そうだ。 「今日は時間があるので、今お願いしても?」 「ええ、すぐに出来ますよ」
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