登ちゃんは三日坊主

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「これでどうでしょう?女性の手跡ではないですから、満足な出来ではないかもしれませんが……」 「……いいえ、充分ですよ、お願いしてよかった」 言葉通りではないのかもしれないが、琴枝さんはそう呟いた。 「代金は……」 「本当は要らないくらいですが、とりあえず百円いただきます」 「は?」 「百円」 実働時間三分では、それでもぼったくりに思える。 「もし安いと思われたなら……そうですね、できるならこの手紙の意味を教えていただけますか?」 俺は、人のことを詮索する趣味はないが、少しだけ気になった。 琴枝さんは頷くと、話し出した。 「私には七十年前、結婚を約束してくれた人がいました。この手紙は、戦争がなければ、渡すはずだったものです。その人は帰って来ることはなく、私は他に嫁ぎました」 俺は言葉の一つもかけてあげられなかった。 「お若い方に詮無いことを話してしまいましたね」 「若くはないです、腰も膝も痛いですし」 最早自分でも何を言っているのかわからない。 琴枝さんが笑ってくれたことに救われた。
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