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「綺麗ねぇ……。」
彼と二人で近くの公園に桜を見に来ていた。
4月も半ばとなるとこの辺りは満開で、ハラハラと花びらが落ち、花吹雪を受けながら桜のトンネルを歩くのはとても幻想的で。
さっきまでつまらないことで怒っていた私の心を十分に癒してくれる。なのにーーー。
「ああ、綺麗……だな。」
「随分とそっけない返事ねぇ。どうしたのよ?」
ぼんやりと適当に返事をする彼に納得がいかない。
「いや、なんでもない。」
なんでもない風には見えないけど…ここは年上らしくそのまま引き下がるか。
「そうなの?なんでもないなら、いいんだけど……きゃっ。」
彼はその桜のトンネルの下、私の体を急に引き寄せぎゅっと抱きしめた。
「やだ、ちょっと離してよ。離しなさいってば、みんな見てる。ほら、そこの小さな子までーーー」
「黙って。」
私の言葉に被せるように彼が言った。仕方なく、私は大人しく彼の胸に身を委ねた。
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