願いの代償

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 ――今夜は七夕。  娘の13回目の誕生日だ。  私は、これまで以上に腕によりをかけて料理を作った。  泣きながら作った。  娘はやはり【性同一性障害】であった。  そして、いずれは性転換手術も望んでいると。  だが、親から授かった身体にメスを入れる事には戸惑いがあると。  ずっと、ずっと――誰にも相談できずに、独りで苦しんでいたのだ。  本来、男の子の心と身体で産まれてくるはずのあの子を私が苦しめた。  あの時、私が星に願い事なんてしなければ……  単なる偶然だとしても、私が望んでしまったことは事実だ。  今夜を、本当のあの子が生まれる日にしよう。  もう、独りで苦しまなくていいんだよ。と、言ってあげよう。  そして……共に夜空を見上げて願おう。  今度は、あの子の幸せを。  インターフォンが鳴った。  私は涙を拭いて笑顔を作り、玄関へ走る。  愛する我が子を、思い切り抱きしめるために――  晴れた夜空に、乳白色の光の粒が川のように流れていた。 【了】
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