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五体満足で生まれてきてくれればそれでいい。それはそうなのだが、出来れば女の子を授かりたかった……と、思うのは我儘なのだろうか。
「そりゃ我儘だろ」
その日の夜、夫の晩酌に付き合いながら今日の診察の結果を報告し、胸のうちを打ち明けた結果、あっさりと切り捨てられた。
「どっちだって健康に産まれてきてくれたら俺はいいけど」
「そんなのわかってるよ……でも……」
私はすでに購入してしまっていた女の子用のベビー服をちらりと見てからため息を吐いた。
それから、その奥の部屋で小さな寝息を立てている6歳と3歳の2人の息子を見て、自分の我儘を少しばかり反省した。
「俺は男の子の方が、いらん心配しなくて済むけどな」
「娘の父親は皆そうなんだろうね……はぁ……ちょっと風に当たってくる」
「身体冷やすなよ? 暖かくなったっていっても夜は冷えるからな」
「はーい」
庭へ出ると、濃紺の空にぼんやりとした光を放つ月と、幾億の星が瞬いていた。
夫の仕事の都合で、以前暮らしていた都内から静岡県の片田舎へ越してきた時は不安しかなかったが、この星空は夜でも明るい都会では絶対に見れない宝物だ。
その星空を眺めながら、私は不意に《星に願いを》を口づさんでいた。
それと同時に、心の中で“お星さま、願わくばお腹のこの子が女の子でありますように”と祈った。
その瞬間、星が放物線を描くように流れ落ちた。
まるで、私の願いが届いたかのように。
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