第2話 朝比奈みつき

5/8
343人が本棚に入れています
本棚に追加
/652ページ
 僕は床の上の書類を必死にかき集めるのがやっとで、彼女に声を掛けることも、目を見ることさえできず、集めた書類の束を彼女の目の前の床に置くと、急いでいるふりをし一段飛ばしで階段を駆け上がった。  後ろから「ありがとうございました」と声をかけてくれた彼女。  僕は振り返ることすらできず、右手をあげてそれに応えるのが精一杯だった。  あの微笑は、どういう意味だったのだろう。  戒めの「見たわね」なのか、容赦の「しょうがないわね」なのか、はたまた見られたことに対する照れ隠しの微笑みだったのだろうか。  じっと覗き込んでしまった自分に後悔の念を抱きながら会議室の席に座った。  あの微笑を思い出すと頭をかかえて布団の中に潜り込みたい気分になった。
/652ページ

最初のコメントを投稿しよう!