第3話 試み

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【毎日忙しいのに、昨日一緒に病院まで行ってくれてありがとう。医療に携わっている治也君が一緒だと、お母さんも安心できるみたいです。ところで、夫が読んでいる本にC型肝炎にかかっている人の四人に一人は肝臓癌になると書かれていたのですが本当ですか? また時間のある時に教えて下さい】  そう、残念ながらその本に書いてあることは正しい。  姉が落ち込まないよう。書いてあることは正しいが皆が肝臓癌になるわけではない、医学の進歩はすごいから、そのうち母を治せる治療法が確立されるかもしれないよ、と打ち込んで返信をした。  だから頑張って薬剤師になった。  そして本当ならその癌を治すための研究を今ここでしているはずなのに、実際やっているのはこんな化粧水の研究。  いやまてよ、そう言えばこのP-SE、角質細胞のアポトーシスを促して新陳代謝を活発にするって言っていたよな。  癌細胞はアポトーシス機能が壊れてしまったために、制御不能な増殖を繰り返して大きくなる。 それなら、もしかしたらこのP-SEは癌に効くんじゃないのか?  そう思い付いた時、僕の視界の中心にはおこげがいた。 角質細胞(皮ふの一番表面にある固くなった細胞) アポトーシス(生物の体を良い状態に保つためにプログラムされた細胞の自殺、細胞死。人の身体は常にアポトーシスと細胞分裂を繰り返している)
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