一人じゃない。

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昼間は様々な人でにぎわう大須だが、夜の9時ともなるとシャッターが閉まり、すっかり静まりかえってしまう。 人々がいなくなると、思った以上にこの通りが直線で構成されていることに気がつく。そう、アスリートが走る100メートルのレーンのように。 そして万松寺通りの端っこに、一人の青年が立った。彼は、昼間は母親が経営する唐揚げ店を手伝う、明るく人のいい日系ブラジル人だった。 彼の名はハーバード瑞樹。しかし今の彼の雰囲気は、昼間の人気者の彼とは少し違っていた。 彼はコキコキと首をまわし、膝をストレッチすると、かたひざを地面についた。 そして少し集中すると、腰をあげ、ダアッとスタートをきって全力で走り始めた。彼の走る姿勢は美しく、明らかにトレーニングを重ねたもののそれだった。 彼は100メートルほど走るとふっと力を抜き、ゆっくりと走ってスタート地点へと戻った。 しばらくすると、呼吸を整えかがみ込んで再びダッシュした。 これを五回ほど繰り返したとき、横丁から一人の女性が顔を出した。
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