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この街の夜空は、いつも明るい。
星一つないが、今夜も明るい。
眠らない人々の喧騒を、鏡のように映しだす空を見あげ、オレは願う。
いつか、かぁちゃんの故郷へ行けますように。
いつか、〝ミカド〟の舞台で踊れますように。
いつか、あの人が幸せになれすように……。
夜空の星に願いを込めれば、きっと叶うと言っていたのは、誰だったっけ?
……誰だったっけ?思い出せない。
道行く酔っぱらいが不意に歌い出す。
電飾スタンドの横に座り込んでた女が手拍子を打った。
ゴミを漁ってた男が手をとめる。
リズムにあわせ、誰かが声を重ねて。
オレは立ち上がり、交差点の真ん中に躍り出ると、調子に合わせステップを踏んだ。
ダンスなんて教わったことない。
古い映像で一度みたきり。
けれど音に身を任せ、体を揺らし、手足を動かす。
頭を振って、腰をくねらせ。
自分の内で渦巻く衝動を、エネルギーに変え放出する。
血沸き肉躍る瞬間。
乱れる呼吸と、汗ばむ皮膚。生きている実感。
一体になる。混ざりあう。街と風と音と……。
いつの間にか、ギャラリーの数が増えていた。
心地よくクルクルと体を回転させながら、オレはそのうちの一人の視線を捕らえてた。
見てんじゃねーよ、オッサン。そんな暗い目して。
一緒に踊る勇気もないくせに。手をとる意気地もないくせに。
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