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……瞬間、ガッ!
いきなり頬を殴られた。
「うるせぇんだよ、イミンのガキが! 死ね、この街のゴミ!」
そんな罵声とともに蹴り倒され、アスファルトの上で体を丸める。
頭と腹だけは守らなきゃ。
日常的に繰り返される暴行。自然に防衛本能が働く。
相手は数人。抵抗なんて、はなからする気ない。
むこうの気が済むまで殴らせる。
たいてい殺す前に、やめてくる。よっぽどラリってなけりゃ。
トーキョー、シンジュクニチョウメ、ゴールデンガイ、カブキチョウ……この場所の地名は、戦前の名残を残す。
そうして、界隈を徘徊してる〝イミン〟は、とうてい人扱いなどされはしない。
隣国の戦争に巻き込まれ、この国が衰退しはじめたのは、オレが生まれるずっと前。
ひっきりなしに続く派兵や、ミサイル爆撃の恐怖、長引く戦況の悪化で、社会も経済も疲弊したんだと、老人どもは語る。
ようやく事態が落ち着いた頃、傷ついた人々の心に残されたのは、絶望と憎悪と差別だけ。
他国は敵国。自分たちを見捨てた裏切者ども。もう誰も信じない。
排他主義の果てに、形成された格差社会。
ネイティブと呼ばれる、この国を祖国とする人々が最高位なら、オレらは底辺の生き物。
最近じゃAIの風俗嬢よりもランク下の位置づけ。
用なしのオレたちに、生きる意味など、誰も与えない。
地面を這いつくばって、泥水すすって日々をしのぐ。
蹴飛ばされ踏みつけられながら、いくつもの夜を越えてきた。
鬱屈まみれの息苦しい夜を。悲鳴まじりの眠れぬ夜を……。
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