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トントンと揺れる肩の上で、目を覚ます。
暴漢どもに路上で殴り飛ばされ、いつの間にか気絶したらしい。
気づけば、男の背中に担がれてた。
「オッサン? ここどこ?」
「もうすぐ家だ。 黙って寝てろ」
あぁそうだ。わかるよ。すえたドブ川のにおいがするもんな。
さすがにもう慣れて、気にもならなくなってきたけど。
「眠れない。 今、起きたばかりだからオレ」
「オマエもうやめろ。
あんな場所で目立つことするから、殴られたりするんだ。
自分でもわかってるだろ?」
「あそこはオレのステージなんだ。
そのうちスカウトされるかもしれない。
ミカドのオーナーの目に留まってさ」
〝ミカド〟は、街の中心地にある、高級劇場。
夜ごと華麗なショーが繰り広げられる場所。
豪華な衣装を身にまとう美しい踊り子が、あふれんばかりの歓声と拍手の中で、舞い踊っていると聞いた。
行ったことはないけれど。行ってみたいな。ずっと憧れてるんだ。
「…………」
オッサンは返事もせず、無言で足を進めた。
オレをおんぶしたまま、ギシギシと軋むボロい階段をのぼっていく。
「オレがミカドで稼げるようになったら、引っ越ししような?
大金手に入れて、ばぁちゃん連れて、大きい家に住むんだぜ」
「…………」
オッサンはやっぱり返事をしない。
だけど階段をのぼりきったところで、唐突に歩みをとめた。
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