消える星

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追い出し屋の怒鳴り声を背中で聞きながら、オッサンと暮らすアパートの階段を急ぎ足で駆け下りる。 向かった場所は、マンホールの中。 地下に張り巡らされた下水道。排水の流れる通路の最奥。デッドエンドの突き当たり。 そんな、腐臭ただよう穴蔵にポツンと置かれた小さな文机。 そこに今夜も“ラットマン”は座っていた。 通称ハゲネズミ。太った出っ歯のモヒカン男。その正体は、斡旋屋。 オレらのようなクズにも仕事を紹介してくれる、ありがたい存在。 「何だキタロか。珍しいな」 かけられた声に頭をさげる。ペコリ。 「あいからわず化けモンみたいな面してんなオマエ」 ラットマンの毒舌を聞くのも、久しぶりだ。以前はよく、お世話になったものだけど。 ちなみに〝キタロ〟って言うのは、オレのあだ名。 片目の眼球がつぶれてるから、皆そう呼ぶ。 なぜだか記憶はないのだけれど、いつかの夜ふけ、街でケンカに巻き込まれ、目覚めると右半分が見えなくなってた。 何されたのかな? 覚えてなくてよかったと思う。トラウマにならずに済んだから。 この身に起こったのは、きっと悪夢みたいに、恐ろしいことだろう。 〝そんな見た目で、ダンサーなんて絶対ムリ〟 よくそう言われ、からかわれるけど、でも前髪のばして隠してるから平気だろ。
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