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「それで、ブスのオマエが何の用だ?」
そんなオレに対し、ラットマンは嫌味な笑顔をむけてくる。
自分だって、じゅうぶんハゲネズミのくせに、腹たつな。
「仕事したい。何かいいの。ない?」
「はあ? オマエが金に困ってるなんて、どうしたよ?
最近は、カレシのオヤジに養ってもらってるんじゃなかったのか?」
「メシはつくってくれるけど、他は何もしてくんねぇもん。アイツ」
「パトロンなんだろ?」
「まさか。オッサンは貧乏だから」
そう。共に暮らしてる、あの男は得体が知れない。
真冬の道端で、寒くて凍え死にしそうになってたオレを、家に連れてかえったくれた。
ちょうど今夜みたいに、その背に担いで。
それ以来、あの家に棲みついてるオレ。妖怪の座敷童のように、何気ない顔して。
拾ってくれた理由は知らない。
寝たきりのばぁさんが、前にオッサンの息子(つまり自分の孫)の話をしてたから、そんなのと重ね合わせてるのかな?
息子なんて、未だに顔も見たことないけど。
オッサンはイミンでも何でもなくて、ただの偏屈な、ひげ面の靴職人。
AIのほうが器用で効率いいから、靴づくりなんて今どき人の手でする仕事じゃないのに。
だけどオッサンは言うんだ。〝こっちのほうが味わいあるだろ?〟
まぁオレもちょっとそう思うよ。
オッサンのつくる靴は、履いた時あったかいなって。ほとんど売れはしないけど。
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