20人が本棚に入れています
本棚に追加
――私にも
新しい私を始めることができますか
私はひとり呟いた
みち子さんは首を傾げてから私を見て
笑顔を一つ投げてよこした
それは薄絹のように軽やかで
柔らかな所作だった
その微笑みは
私の独り言に対する肯定だと
新しい日々への祝福だと
私は勝手にそう思うことにした
明日克也に言おう。
さようならと
ありがとうと
私は涙を吹いて
みち子さんを見た
夜空のように広く
星のように可憐で
月のように暖かい
そんなひとだった
――ねえ、みち子さん
ご主人はきっと天国で
みち子さんのことを神様たちに
自慢していると思いますよ
俺の嫁はこんなにも美しいと
自慢していると思います
私は心の中で呟いた
なぜだか微笑みがこぼれ落ちた
みち子さんは隣でずっと
鼻唄を歌っていた
まるで子守唄の、ようだった
【完】
最初のコメントを投稿しよう!