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橋本レイ、28歳
会社員、総合職
東京で一人暮らし
初夏の21時
最寄り駅から自宅までを歩く
ヒールの音がかつかつと響く
メールの着信音
恋人の克也から
――週末は仕事だから会えそうもない
ごめん
わかった、と返信
何に対して
謝っているのだろう
もちろん
会えない事
それに
嘘をついている事
奥さんと子供と過ごすのに
仕事だと嘘を
深いため息をひとつ
こんな気持ちをもて余して
もう3年が経つ
私は何をしているのだろう
何かが渇いてコンビニに入る
きんと冷えたアイスコーヒーを買う
そのプルタブを開けながら
コンビニ脇に設置してある灰皿で一服
克也の前では吸わない
彼は非喫煙者だし
臭いがつくと困るだろうから
自宅に到着
ポストに一通の葉書
みち子さんからだ
みち子さんは父の従兄弟のお嫁さん
私と30歳違いの58歳
再来年還暦を迎える
――旅行でフランスに行きました
その時の写真です
ところで久しぶりに
うちに遊びに来ませんか?
みち子さんの家か、と
幼少のころに思いを馳せる
きっと行くことになるだろう
青臭い言い方をすれば
私は彼女が好きだから
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