【8歳・秋の記憶】

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みち子さんは38歳でご主人を亡くした ご主人の名を忠雄(ただお)さんという 葬式でみち子さんは泣いていた 乱れた髪をそのままにして 手を彼の頬にやって ただおさん、 ただおさん、 と 泣きながら何かを言っていた 私には何を言っているのか 聞こえなかったけれど 幼心にみち子さんの横顔を しっかりと記憶していた 忠雄さんのお母さんをしめよさんという しめよさんも泣いていた 忠雄、親より先に逝くなんて 一番の親不孝者だよ と そうか親より先に逝くのは 一番の親不幸者なのだと 幼心に妙に納得したものだった その後みち子さんとしめよさんは 一緒に暮らすことになった みち子さんと忠雄さんの間に 子供はいなかった ――お姑さんと二人暮らしだなんて と私の母が言った ――みち子さんだからな と父が言った 母は少し機嫌が悪くなり ――そうね、みち子さんは   何でもできますものね と言って無言になった そうか、みち子さんは 何でもできるんだ と、思った
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